「先生!!」
「ディラン先生!!」
主任教官の気配が完全に消えたところで、オニールとナントがベッドを離れ、ディランの元に駆け寄った。
「聞いてください!ナントが挑発してきて、自分ははめられたんです」
「そっちこそ、いつもいつも陰険なことばかりしてきただろう!」
「おい、ふたりとも勝手に…」
勝手にしゃべるな、ノアが言い掛けるも、
「ひとりずつしゃべれ!」
すぐさまディランの怒声に搔き消された。
二人の言い分はこうだ。オニールいわく、ナントは常に衝動的で、何かにつけて突っ掛かってくるから始末に悪い。
一方、ナントに言わせれば、オニールは陰険で、これまで己より成績が劣ることを散々馬鹿にしてきたのだという。
「わかった。もうたくさんだ」
教え子たちの言い分を聞き終わると、ディランは露骨にため息を吐いた。
「ごちゃごちゃ御託を並べてはいたが、つまるところ、お前たち二人は反りがあわないんだろう?俺が復帰したら、部屋割りを変えてやるから、それまで我慢しろ」
ディランの言葉に二人は顔を輝かせた。そんな彼らを見て、ノアは思う。それで無用なトラブルを回避できるなら、その手もありだ。勿論、恩師なら絶対にしないだろうが。
「だがな、これだけは覚えておけ。世の中、自分と合わない奴はゴロゴロいる。次に他の誰かと問題を起こしてみろ。そのときは、お前らのほうに原因があると見なすからな」
「はい!」
嬉々として返事を返すナントに対し、オニールのほうは思うところがあるのか、不安そうに教官を窺った。
「それからお前ら、自分らが今どういう状況にいるか、忘れたわけじゃないだろうな。まさか一晩で二度も罰を貰う奴が出るとは思いもよらなかった」
ディランは教え子たちを叱りつけながら、その実こちらを威嚇してくる。ノアは今度こそ腹を決め、パドルを握り直した。
「さっさと終わらすぞ。オニール!ナント!尻を向けろ」
ディランの声音は、先程までとは打って変わって有無を言わさぬ雰囲気だ。ナントもオニールも、慌てて寝間着の裾を捲った。
「ガイルズ教官、こいつらを徹底的にぶちのめせ。一晩に二度も騒ぎを起こすような連中に、同情は要らない。教官を虚仮にするとどうなるか、身体に教えてやれ」
「は!」
ノアはまず手始めにオニールに向かってパドルを振り下ろした。
「あぁぁ!」
想像していたより遥かに大きな音が鳴り、利き手に感じる反動も先程の非ではない。だが、もう可哀想だとは思わなかった。そのまま一打、また一打と淡々と罰を執行し続ける。
半ダースを過ぎたあたりから、オニールの尻が左右に揺れた。言うまでもなく痛みに耐えきれなくなったのだろう。ノアは、構うことなく執拗に尻を打った。
規定の罰を与え終わり、ディランのほうを振り替える。彼は無言のまま、顎をしゃくった。今度は隣のナントを罰しろということだ。
ノアは今度も先程と同じように、一貫してきつい罰を加えた。ナントのほうがこういったことに慣れているのか、比較的大人しく尻を打たれていた。
「どうだお前ら、反省したか?」
二人を罰し終わったところで、おもむろにディランが口を開いた。
「反省しました!」
「申し訳ありませんでした!」
二人は口々に謝罪を述べた。
「だそうだ。どう思う?ガイルズ教官」
どうもこうもない。ディランの冷めきった声音がすべてを物語っている。
「まだまだ不充分かと」
ノアが意地悪く言うと、教え子たちは同時に背後を振り返った。差し詰め、信じられないといった具合だ。
「確かに、勝手に起き上がるようじゃあ反省には程遠い。罰を追加しろ。今度は二人同時だ」
「はっ」
言うが早い、ノアは絶望の縁に立っている二人を速やかに地獄に叩き落とした。
「あっ!」
「うっ!」
二人は交互に打たれながら、代わる代わる悲鳴を上げた。が、いくらもいかずにオニールのほうが音を上げた。
「すいません!すいません!もう、もう…」
もう無理ですとばかりに尻を手で覆ったのだ。
「おい、それを決めるのは…」
「それを決めるのはお前じゃない!!」
動揺するノアに代わって、ディランが雷を落とす。
「ガイルズ教官、オニールの手を引き剥がせ。反抗した分、余計に打て」
「は!」
暴れるオニールを抑え込み、パシンパシンと続けて尻を打つ。
「うわぁあ!!」
「あぁぁぁ!!」
そんなオニールにつられ、ナントもまたジタバタと暴れ始めた。まさに地獄絵図だ。そして、そんなことを思う自分は、今や地獄の鬼のひとりだ。
「見苦しいぞ!!お前ら!」
ディランの一喝で、瞬時に二人の抵抗が止んだ。なるほど、この期に及んで、自分はまだなお、舐められているらしい。